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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)9729号 判決 1981年12月21日

甲事件原告(乙事件被告)

安田火災海上保険株式会社

右代表者

三好武夫

右訴訟代理人

舟橋諄一

熊本典道

外三名

甲事件被告(乙事件原告)

セントラルリース株式会社

右代表者

近藤豊平

右訴訟代理人

松島泰

後藤昌夫

外六名

乙事件被告

山本興業株式会社

右代表者

山本邦治郎

右訴訟代理人

海老原茂

菊地一夫

外二名

主文

一  甲事件被告(乙事件原告)セントラルリース株式会社は、甲事件原告(乙事件被告)安田火災海上保険株式会社に対し、金九九五五万六五〇〇円及びこれに対する昭和五〇年九月一二日から右支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  乙事件被告山本興業株式会社は、乙事件原告(甲事件被告)セントラルリース株式会社に対し、金一四億一八一一万八〇八二円及び内金一〇億六三二三万七七五一円に対する昭和五五年二月二日から、内金三億四三九九万八七六三円に対する昭和五五年五月一三日から、各支払ずみに至るまで日歩四銭の割合による金員を支払え。

三  乙事件原告(甲事件被告)セントラルリース株式会社の、乙事件被告山本興業株式会社に対するその余の請求及び乙事件被告(甲事件原告)安田火災海上保険株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、甲・乙事件を通じ、これを五分し、その二を甲事件被告(乙事件原告)セントラルリース株式会社の、その余を乙事件被告山本興業株式会社の負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

((甲事件))

一  請求の趣旨

1  主文第一項と同旨

2  訴訟費用は甲事件被告(乙事件原告)セントラルリース株式会社(以下、被告セントラルリースという。)の負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  甲事件原告(乙事件被告)安田火災海上保険株式会社(以下、原告安田火災海上保険という。)の被告セントラルリースに対する請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告安田火災海上保険の負担とする。

((乙事件))

一  請求の趣旨

1  原告安田火災海上保険及び乙事件被告山本興業株式会社(以下、被告山本興業という。)は、被告セントラルリースに対し、連帯して、金一四億一八一一万八〇八二円及び内金一〇億六三二三万七七五一円に対する昭和五五年二月二日から、内金三億五四八八万〇三三一円に対する昭和五五年五月一三日から、各支払ずみに至るまで日歩四銭の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は原告安田火災海上保険及び被告山本興業の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告セントラルリースの原告安田火災海上保険及び被告山本興業に対する請求は、いずれもこれを棄却する。

2  訴訟費用は被告セントラルリースの負担とする。

第二  当事者の主張

((甲事件))

一  請求原因

1  原告安田火災海上保険は、損害保険業務を営む株式会社である。

2  被告セントラルリースは、リースを業とする株式会社である。

3  被告セントラルリースは、昭和五〇年一月二二日被告山本興業との間で、被告セントラルリースをリース貸主、被告山本興業をリース借主とする左記内容のリース契約を締結した。

(一) リース物件 NTK方式パイル打設船(KSCNo.20、以下本件打設船という。)

(二) リース期間 昭和五〇年三月一日から昭和五五年二月二九日迄

(三) リース料 月額一五六二万八〇〇〇円、毎月当月分を一日に支払うこと。

(四) 規定損害金 第一年度金七億七七〇〇万円 (以下省略)

(五) 遅延損害金 日歩四銭

4  原告安田火災海上保険は、昭和五〇年二月二八日被告セントラルリースとの間で、被告山本興業が前記3のリース契約により被告セントラルリースに対して負担する債務につき、主債務の不履行が生じた場合において左記契約に定める保証金額を連帯支払う旨の保証契約(以下、本件保証契約という。)を締結した。

(一) 保証期間 昭和五〇年三月一日から昭和五五年二月二九日迄

(二) 保証料 金一九八九万八一三八円

(三) 保証金額 昭和五〇年三月一日から昭和五一年二月二九日まで金七億七七〇〇万円 (以下省略)

5  更に、被告セントラルリースは、昭和五〇年三月一八日被告山本興業との間で、被告セントラルリースをリース貸主、被告山本興業をリース借主とする、本件打設船の附属設備であるサンドコンパクション(以下本件SC装置という。)に関する左記内容のリース契約を締結した。

(一) リース物件 サンドコンパクションTIL一〇六三型一式

(二) リース期間 昭和五〇年三月一八日から昭和五五年三月一七日迄

(三) リース料 月額金四二八万三三〇〇円、毎月当月分を一日に(ただし、昭和五〇年三月分については同月一八日に)支払うこと

(四) 規定損害金 第一年度金一億八八七〇万円 (以下省略)

(五) 遅延損害金 日歩四銭

6  原告安田火災海上保険は、昭和五〇年三月一八日、被告セントラルリースとの間で、被告山本興業が、前記5のリース契約により被告セントラルリースに対して負担する債務につき、主債務の不履行が生じた場合において左記契約に定める保証金額を連帯支払う旨の保証契約(以下、本件SC装置についての保証契約という。)を締結した。

(一) 保証期間 昭和五〇年三月一八日から同五五年三月一七日

(二) 保証料 四五二万六一〇二円

(三) 保証金額 昭和五〇年三月一八日から昭和五一年三月一七日まで金一億八八七〇万円 (以下省略)

7  (原告安田火災海上保険の保証契約一部履行)

(一) 被告山本興業は、右各保証契約の締結からわずか一ケ月余り後の昭和五〇年四月二一日その振出にかかる手形の決済が出来ず不渡り処分を受け倒産するに至つた。

(二) そこで、前記各リース契約の債務につき被告山本興業の保証人であつた原告安田火災海上保険は、被告セントラルリースの請求により、昭和五〇年九月一〇日前記リース契約にもとづく規定損害金の一部先払いとして、金九九五五万六五〇〇円を同被告に対して振込送金し、翌一一日同被告はこれを受領した。

8  (詐欺による保証契約の取消し)

(一) 被告山本興業は、原告安田火災海上保険に対し、原被告間の前記各保証契約の締結に際し、

(1) 実際には、被告山本興業は、昭和四九年一一月ごろから資金繰りが悪く高利金融業者からの借入を余儀なくされ、昭和五〇年一月には経常収入が経常支出をはるかに下廻る状況になり、同年二月分の資金繰りまでは訴外日本リース株式会社に売却したパイル打設船KSC10号の代金等により凌げる見通しであつたものの、同年三月分の資金繰りについては当時未完成であつた本件リース物件たる打設船の艤装代金二億五〇〇万円の入金及び本件打設船の稼働による収益を、更に同年四月分の資金繰りも用船矢野丸の売船仲介手数料をそれぞれ当てにする外はなく、同年五、六月分の資金繰りに至つては同年二月の時点では全く目途も立つていない状況にあつたばかりでなく、更に本件打設船のリース契約及びこれについての保証契約の始期である同年三月一日の時点では本件打設船は未完成で建設機械としての所有権保存登記手続をする前提としての打刻の申請すら不可能な状態でもとより月間一億円の稼働利益を挙げうるような状況にはなく、それどころか本件打設船のサンドコンパクト工法について東京都の許可も工事契約も確定していなかった。

(2) それにもかかわらず、被告山本興業は、原告安田火災海上保険に対し、黒字に粉飾した決算書、内容虚偽の経営状態良好な経理試算表、水増しをした手持工事一覧表等の書類・資料を提供し、本件打設船について「完成の上山本興業が引渡を受けた」旨の借受証を作成して同原告に提出したほか、被告山本興業営業部長鳥井において、本件打設船は東京都産業廃棄物処理場建設工事に使用するものでその工事の受注も決定し納期も迫られており、同年三月一日から直ちに稼働する予定になつておりその場合一日当り五〇本の砂杭を打ち月間二〇日間稼働し砂杭一本当り単価一〇万円として月間収益一億円の計上が可能である旨申し向けるなどして原告安田火災海上保険を欺いた。

(3) その結果、同原告をして、被告山本興業の企業内容・経理状況は健全で本件打設船は同年三月初めから稼働を開始して一ケ月約一億円の収益を挙げ本件リース料を滞りなく支払いうる状況にある旨誤信させたうえ、前記保証契約を締結させた。

(二) 被告セントラルリースは、被告山本興業が原告安田火災海上保険に対し右(一)のような欺罔行為をなし、その結果同原告がその旨誤信して前記各保証契約を被告セントラルリースとの間で締結したことを知悉していたか、もしくは十分に知りうるべかりし状況にあつた。

本訴被告セントラルリースの右悪意を基礎づける事実は次の通りである。

(1) 本件各保証契約締結に至る経緯

(イ) 本件打設船のリース貸主が被告セントラルリースとなつたのは大手商社の株式会社トーメン(以下トーメンという。)の指名によるものであつた。

(ロ) 被告セントラルリースの吉原らは、昭和五〇年一月二一日自ら原告安田火災海上保険の小島を訪ね同原告の本件打設船リース契約についての保証引受の意思を確認し、保証引受の見通しであると告げられるや、同席していた被告山本興業の鳥井に同日もしくは翌日中にも保証料を払込み保証委託契約を早急に締結するよう強要し、後日トーメンの担当者らと右保証料支払確認のため再度原告を来訪した。

(ハ) 同年二月二八日には本件打設船は建設機械抵当法所定の打刻も未了の状況にあり、右事実は被告セントラルリースの吉原・山本らも知悉していた。

しかるに、同人らは、本件打設船につき原告安田火災海上保険を抵当権者とする抵当権設定登記手続をするためトーメンから紹介された海事代理士の三池と相謀り、未だ存在しない本件打設船の登記済権利証を三池作成の預り証に記載して原告の川原林に交付して抵当権設定登記済権利証に代わる書類の交付があつたものとして、原告をして本件打設船のリース契約債務の保証契約を締結し保証証券を作成交付させた。

(2) トーメン・被告セントラルリース・被告山本興業の関係

(イ) 本件各リース契約債務の保証契約締結に際し、主として被告セントラルリース側担当責任者として交渉に当つたのは、トーメンから同被告東京支店副支店長として出向していた吉原であつた。

(ロ) トーメンは被告セントラルリースに常時役職員として四乃至六名を出向させており、同被告の資本の約一割を出資し、リース物件の第一位の供給元であつた。

(ハ) 昭和四六年ごろにも被告山本興業はトーメンの口ききで被告セントラルリースから中古船をリース借したことがあつた。

(3) トーメン・被告セントラルリース・被告山本興業の利害の一致

(イ) トーメンは、昭和四九年一二月中旬、被告山本興業との間で、本件打設船につき訴外株式会社瀬戸崎鉄工所(以下瀬戸崎鉄工という。)からトーメンが買受け被告セントラルリースに売渡し同被告は被告山本興業にリース貸する方針を決定し、昭和五〇年一月七日には瀬戸崎鉄工との間で本件打設船を金六億五〇〇〇万円で買受ける契約を締結し、同月二二日には現に代金の半額三億二五〇〇万円の約束手形を振出し支払つていた。

(ロ) 本件打設船は、サンドコンパクション工法に使用する砂杭打設船で他の用途に利用するには数億円をかけて改造する必要があり、被告山本興業にリース貸する以外の処分価値には問題があつた。

(ハ) 被告山本興業の昭和五〇年一乃至三月の資金繰りは、別の打設船KSC10号の日本リースへの売却代金と瀬戸崎鉄工から下請した本件打設船の艤装工事代金に殆んど依存しており、本件打設船のリース契約についての保証契約の目途が立たず右下請艤装工事代金の早期支払が得られなければ被告山本興業は同年一、二月にも倒産が必至の状況にあつた。現に、被告山本興業はトーメンに再三右下請艤装工事代金の早期支払を懇請し、同年一月二三日には右工事開始に先立つて工事費の約半額の九五〇〇万円をトーメン振出の手形で受領し、工事未完成の二月中に大半の右工事代金を受領していた。

(三) 原告安田火災海上保険は被告セントラルリースに対し甲事件訴状をもつて前記各保証契約を取消す旨の意思表示をなし、右訴状は昭和五一年二月一六日被告セントラルリースに到達した。

9  (錯誤による保証契約の無効)

(一)原告安田火災海上保険は、前記各保証契約締結当時、実際には被告山本興業の経理状態・資金繰り及び本件打設船の稼働能力は8項(一)(1)の状況にあつたにもかかわらず、同項(一)(3)の状況にあるものと誤信していた。

(二) 原告安田火災海上保険は、被告セントラルリースに対し、右各保証契約締結に際し、被告山本興業の経理状態・資金繰り及び本件打設船の稼働能力が8項(一)(3)の状況にあるので、前記各保証契約を締結する旨を述べた。

10  仮りに8、9項が認められないとしても、

(一) 被告セントラルリースと被告山本興業は、本件各リース契約を締結するに際し、被告山本興業がリース代金支払債務の履行を怠つたときは、被告セントラルリースはリース契約を解除したときのみ規定損害金を被告山本興業に請求しうる旨合意した。

(二) 原告安田火災海上保険が、被告セントラルリースに7項の金九九五五万六五〇〇円を支払つたのは、同被告のリース契約解除の条件が整うのも間近であるとの判断から、とりあえず同被告の現実にこうむつた損害を「リース料相当額として」規定損害金の一部先払として支払つたものである。

(三) 被告セントラルリースは、本件各リース契約期間中に被告山本興業に対し本件各リース契約解除の意思表示をしなかつた。

11  よつて、原告安田火災海上保険は、被告セントラルリースに対し、不当利得返還請求権に基づき、同原告が同被告に給付した金九九五五万六五〇〇円及びこれに対する同被告が悪意で右金員を受領した日の翌日である昭和五〇年九月一二日から右支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1乃至6の事実はいずれも認める。

2(一)  同7(一)の事実は認める。

(二)  同7(二)の事実のうち、原告安田火災海上保険が保証債務の一部履行として昭和五〇年九月一〇日金九九五五万六五〇〇円を振込送金し、被告セントラルリースが翌一一日これを受領した事実は認め、右金員が「規定損害金の一部先払」として支払われた事実は否認する。

3(一)  請求原因8(一)の事実はいずれも知らない。

(二)  同8(二)の事実は否認する。

(1) 同(1)の事実のうち、被告セントラルリースの吉原らが被告山本興業の鳥井に保証料を早く支払うよう依頼した事実は認めその余の事実は否認する。吉原らが原告安田火災海上保険の保証の意思確認に赴いたのは同月一七日のことで同原告会社名の保証引受確認書は出せないと小島が答えたため被告セントラルリースは本件打設船のリース契約を取止めることとしたが、同月二一日朝、鳥井及び被告山本興業の山本邦治郎社長が来社して保証委託契約書で保証引受確認書に代えうるという案を示したので早期に保証料を支払うよう求めたものである。また、二月二八日の時点で打刻未了である点は川原林も了解ずみである。

(2) 同(2)の事実のうち吉原が本件保証契約交渉の中心人物であつた事実は否認し、その余の事実は認める(なおトーメンから被告セントラルリースへの物件供給高が第一位だつたのは本件打設船が巨額であつた昭和五〇年度だけである。)。保証契約交渉に主として当つたのは山本であつた。

(3) 同(3)の事実のうち、トーメンが本件打設船を瀬戸崎鉄工から買受ける契約を昭和五〇年一月七日締結したことは認め、トーメンと被告山本興業との交渉、同被告の資金繰状況等については知らない。本件打設船の処分価値に問題があるとの事実は否認する。

(三)  同8(三)の事実は認める。

4(一)  同9(一)の事実は知らない。

(二)  同9(二)の事実は否認する。

5(一)  同10(一)、(二)の事実は否認する。

(二)  同10(三)の事実は認める。

三  (仮定的)抗弁《以下、省略》

理由

第一甲事件に対する判断

一請求原因1乃至6、7(一)の各事実はすべて当事者間に争いがない。

二まず、請求原因7(二)について考える。

1  請求原因7(二)の事実のうち、原告安田火災海上保険から被告セントラルリースに振込送金された金員の性格を除いて当事者間に争いはない。

2  そして、<証拠>を綜合すると、原告安田火災海上保険は、昭和五〇年九月一〇日、被告セントラルリースの請求により、同被告の財政状況のひつぱくに鑑み、同被告の本件各リース契約の解除が間近であると考え、これに先立つて、規定損害金の内金払又は先払として、請求原因7(二)記載の金員を同被告宛振込支払つたことが認められ、<反証排斥略>。

三請求原因8(一)(1)について判断する。

1  本件打設船建造に至る経緯、建造の状況、性能、収益性

<証拠>を綜合すると次の事実が認められる。

(一) 被告山本興業は、昭和四二年八月、当時訴外佐伯建設工業株式会社の営業部長を辞任した山本邦治郎が、傭船による内航運送業を営むことを目的に設立し代表取締役となつた株式会社で、その後昭和四五、六年ころからは浚渫、防波堤工事等の港湾土木工事部門にも進出し、昭和四九年未現在では資本金六〇〇〇万円を擁し主たる経常収入源を浚渫、地盤改良などの港湾土木工事に依存していた。

(二)(1) 同被告は、昭和四八年のオイルショック後の総需要抑制策により内航運送及び港湾関係建設請負工事の経常収入の停滞に悩まされ、固定的経常収入の増加策を模索していた。

(2) そこで、同被告は、東京都の産業廃棄物処理工場の地盤改良工事の下請工事を受注完工して固定収入を図るため、既に昭和四九年夏ごろから計画して建造を進めていたサンドコンパクション工法による地盤改良工事を行う中古船改造の打設船KSC10号に続いて、同年一一月ごろ同じくサンドコンパクション工法に使用する本件打設船(KSC20号)の建造計画を具体化させた。

(三)(1) 本件打設船の建造費としては、最低五〜六億円が見込まれ、被告山本興業の自己資金力では到底これをまかない切れないものであつたので、同被告は、商社かリース会社に資金負担者として建造主になつてもらうことを目論み訴外住友商事株式会社にこの話を持掛けたが、結局同訴外会社の取上げるところとならなかつた。

(2) そこで、被告山本興業代表取締役山本邦治郎及び総務部長鳥井らは、同被告から本件打設船の仮発注を受け既に下請工事の外注などをしていた瀬戸崎鉄工の代表取締役瀬戸崎松太郎(以下、瀬戸崎という。)が、大手商社の訴外株式会社トーメン(以下、トーメンという。)に話を持込んでみてはどうかと進言したので、右進言をいれ、瀬戸崎とともにトーメンに赴き、同社が本件打設船建造の注文主となつてくれるよう交渉に入つた。

(3) トーメンでは同被告の右申入れに対し、同社が本件打設船建造工事の実質的注文者になることは差支えないが、同社が直接同被告にリース貸することはできないので、同社の系列下にある被告セントラルリースからリース借してはどうかと勧め、同社産業プロジェクト部の土屋課長から被告セントラルリース宛その旨右商談を取次いだ。

(4) その結果、同年一二月中旬には、本件打設船建造計画につき、瀬戸崎鉄工が建造してトーメンに売却し、トーメンから更に被告セントラルリースに売却し、被告セントラルリースが被告山本興業にリース貸するという線で、トーメンと被告山本興業との間で話の大筋が固まつた。

(四) この話合に副つて、

(1) 瀬戸崎鉄工は、被告山本興業の仮発注に基づき昭和四九年一一月ごろから本件打設船建造工事に着手していたのを、昭和五〇年一月二二日ころには本件打設船の躯体工事を完成させた。

(2) これより、前同年一月七日、瀬戸崎鉄工はトーメンに本件打設船を金六億五〇〇〇万円で売却する旨の売買契約を締結し、同月二二日ころにはトーメンにこれを引渡し、次いで、本件打設船は被告山本興業が同鉄工から下請していた艤装工事(同鉄工がトーメンより請負つたもの)のため東京港へ廻航され同月末ごろ同被告に引渡された。

(3) 同被告の本件打設船の艤装工事は、同年三月一日の本件打設船についてのリース開始時には竣工せず、結局、右工事が細部手直し等は別として一応の完成をみたのは同年四月上旬のことであつた。

因みに本件打設船につき建設機械としての保存登記をなすための打刻が東京都知事によつてなされたのは同年四月一一日のことであつた。

(証人山本の供述中、本件打設船についての原告安田火災海上保険を抵当権者とする抵当権の設定登記手続が同年四月一七日まで遅延したのは都庁の打刻担当者の人事異動とか、ケーシング(SC装置部分)と一緒に打刻するようにとの担当者の指示によつて打刻が三週間近く遅延したことによるもので本件打設船自体は三月初めには完成していた旨の供述部分は、証人三池、同室谷、同鳥井の各証言に照して措信しがたく、又、被告山本興業代表者本人の供述中同年三月一日には本件打設船は完成していた旨の供述部分は同人の他の供述部分に照して検討すると、単に打設船の躯体部分の工事が完成していたということにすぎないので、これらはいずれも前記認定を左右するに足りるものではない。)

(4) しかも、同年四月二一日の被告山本興業倒産時点においてもなお、本件打設船とSC装置の結合が未了で本件打設船及びSC装置は稼働不能の状態にあり、その後、同年一〇月の時点においてもなおSC装置に改良すべき欠陥があり稼働に適する状況にはなかつた。

(五) 本件打設船の完成時の稼働による水揚は、被告山本興業の予定していたところでもKSC10号と本件打設船の二隻合計で月間約一億円ということで本件打設船のみでは月間約五〇〇〇万円程度であつた。

(六)(1) また、そもそも本件打設船及びKSC10号のサンドコンパクション工法自体が、昭和五〇年三月初めの時点では東京都の工事についての認証を得たものでなく、右工法につき都の認証が得られたのは昭和五〇年一〇月ごろのことであつた。

(2) 従つて、昭和五〇年三月一日の時点では、もとより同被告が本件打設船もしくはKSC10号を使用して東京都の産業廃棄物処理工場の地盤改良工事の下請工事を受注できる目途は、時期的にも金額(事業量)的にも何ら確定的なものでなかつた。

2  被告山本興業の経営状態

<証拠>を綜合すると次の事実が認められ、右認定に反する証拠は存しない。

(一) 被告山本興業の内外航船運送事業収入と港湾関係建設請負工事収入を主とする経常収入は、昭和四八年のオイルショック後の総需要抑制策以後停滞し、同被告は、前記三1(二)のとおり安定的な固定収入を得るため地盤改良工事のサンドコンパクション工法に使用する本件打設船の新造を計画するに至つた。

(二) 同被告の昭和四九年一〇月乃至五〇年三月の六ケ月間の支出は各月二億六〇〇〇万円乃至三億四〇〇〇万円余で、他方この間の収入は、各月一億七七〇〇万円乃至三億二〇〇〇万円にすぎず、結局この間、昭和四九年一〇月は約八〇〇〇万円の赤字、同年一一、一二月は各四〇〇万円、二三〇〇万円の黒字となつたものの、五〇年一月乃至三月は各八二〇〇万円、一億〇七〇〇万円、八六〇〇万円の各大巾赤字を記録するなど、同被告の資本金が六〇〇〇万円であることを考慮するとその経営状態は極度に悪化の一途を辿つていた。

(三) しかも、同被告の収入の内訳は、内外航運賃収入及び港湾建設関係請負工事収入等から成る営業収入が伸び悩み、その分を売船代金収入など営業外収入で補填するという不健全な傾向を示しており、現に、昭和四九年一一月には保有船舶の売買代金二七八〇万円が、同年一二月には訴外日本リース株式会社(以下、日本リースという。)に売却した前記打設船KSC10号の売却代金前渡分六五〇〇万円が、五〇年一月にはKSC10号の売却残代金一億七六〇〇万円及び本件打設船の艤装工事請負代金九五〇〇万円が、同年二月には同じく本件打設船の艤装工事請負代金七〇〇〇万円が、それぞれ各月の収入額の相当部分を占めていた。

(四) こうした経営状況下で、同被告は、昭和四九年一一月には銀行・信用金庫等からの借入が限度額に達したため、当座の資金繰りのため社外には秘密で街の高利の金融業者である訴外株式会社アイチ(以下、アイチという。)から日歩一〇銭程度の高利で金二五〇〇万円を借入れ、その後同年一二月にも金二五〇〇万円、昭和五〇年一月には計金七五〇〇万円、同年二、三月には各金三〇〇〇万円をいずれもアイチから借入れるという状況にあつた。

(五)(1) 同被告の昭和五〇年一月時点での同月以降の資金繰りの予定は、同年一乃至三月分は日本リースへの前記KSC10号の売却代金及び瀬戸崎鉄工から下請した本件打設船の艤装工事代金で切抜け、同年四月分については用船矢野丸の台湾への売却代金約一億九〇〇〇万円と本件打設船の稼働収益金約五〇〇〇万円を当てにする外はなく、更に同年二月の時点での同年五、六月分の資金繰りの見通しは、本件打設船の稼働収益の外にこれといつた目当てはなかつた。

(2) 右の見通しに対して、同被告の資金繰りの実績は、同年一月においては収入合計二億六三〇〇万円のうち実に一億七六〇〇万円が日本リースへの前記打設船KSC10号の売却代金、九五〇〇万円が本件打設船の艤装工事代金、同年二月においては収入合計一億七七〇〇万円のうち七〇〇〇万円が本件打設船の艤装工事代金、同年三月においては収入合計二億四七〇〇万円のうち実に一億六二〇〇万円が本件打設船下請工事関係の代金という状況にあり、このように、同年一乃至三月の時期においては、同被告の資金繰りは実質的には前記打設船KSC10号の売却代金と本件打設船の下請艤装工事代金で辛うじて凌いでいる状況にあつた。

更に、同年四月分の収入源については、本件打設船の下請艤装工事代金を既に前月までに全額受領し終つていてこれに依存できず、しかも、本件打設船は前記のとおり稼働可能の状態になくその水揚げの稼働収益もなく、用船矢野丸の台湾への売却代金約一億九〇〇〇万円に期待したが、LC条件の見込ちがいから輸出信用状の割引現金化に失敗し、同被告は、資金不足のため同月二〇日の手形決済が不可能となり不渡事故を起し倒産するに至つた。

(六)(1) 同被告の倒産の原因は、直接的には、矢野丸の売船の不手際にあるが、本質的構造的には、港湾関係建設工事業及び内外航運送事業による営業収入が昭和四八年のオイルショック後の総需要抑制策以後停滞したことと、右営業収入の停滞を打破する切札としてのサンドコンパクション工法に使用する前記打設船KSC10号及び本件打設船の建造計画が、いわば拙速主義的見込発車で技術的準備等が不足して建造工事の遅延や技術的アクシデントを生じた上、都のサンドコンパクション工法に対する早期の認証が得られず稼働収益化が当初の昭和五〇年三月初めの見込から大きくずれ込んだことにあつた。

(2) また、同年三月初めから四月二一日の被告山本興業の倒産までの間に、同被告の大口取引先の倒産による貸倒れの発生などの突発的不可抗力的な同被告をとりまく経済環境の悪化要因は存しなかつた。

(3) そして、もし原告安田火災海上保険が、昭和五〇年一月下旬ごろ被告山本興業の被告セントラルリースからの本件打設船リース契約債務の保証契約締結につき前向きに取上げる姿勢を示さなかつたなら、被告山本興業は瀬戸崎鉄工から本件打設船についての下請艤装工事の受注もできず、同被告の倒産はより早期の同年二、三月の時点で現実化を免れないものであつた。

四請求原因8(一)(2)、(3)について判断する。

1  請求原因8(一)(2)について

<証拠>を綜合すると、次の事実が認められ、右認定に反する証拠は存しない。

(一) 被告山本興業の鳥井は、昭和五〇年一月九日原告安田火災海上保険の小島に同被告の被告セントラルリースに対するリース契約上の債務につき同原告の保証を求めて交渉に入つて以来同年二月下旬にかけて小島の求めに応じて被告山本興業の経営状態・資金繰り、本件打設船の性能・収益性等を判断するための諸資料を提供した外、口頭でも説明した。

(二) 鳥井が原告安田火災海上保険に提供した資料のうち被告山本興業の昭和四六乃至四八年度の決算報告書は粉飾されたものではなかつたが、昭和四九年九月分の試算表は経理状況の不振を糊塗するため作為が施されたものであり、手持工事一覧表は少なからぬ部分に金額の水増しがあり、かつ一応商談の引合があつた程度で受注の見込があると考えられないものも恣に列挙したものであつた。

(三) 鳥井は、原告安田火災海上保険の小島らに対し、口頭でも被告山本興業の経理状況・資金繰りに不安はなく、本件打設船は昭和五〇年三月初めには完成稼働可能な状況にあり、右完成稼働の暁には一日五〇本の砂杭を打ち、一ヶ月二〇日稼働するとしても砂杭一本の単価一〇万円として月一億円程度の水揚げで、そこから本件各リース料一ヶ月合計金約二〇〇〇万円は十分まかないうる旨説明していた。

2  請求原因8(一)(3)について

<証拠>及び前記当事者間に争いのない請求原因7(一)の事実を綜合すると、被告山本興業の前記1の欺罔行為によつて原告安田火災海上保険が、同被告の経営状況・資力に問題はなく、本件打設船は昭和五〇年三月初めには完成稼働が可能でその稼働収益で本件各リース料を十分まかないうる旨誤信し、その結果、同被告の被告セントラルリースに対する本件リース契約上の債務につき連帯して責に任する旨の請求原因4及び6記載の保証契約を締結した事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠は存しない。

五請求原因8(二)について判断する。

1  <証拠>を綜合すると、次の事実が認められ、右認定に反する証人山本、同吉原、同三池の各証言部分は前掲証拠に照らして措信しがたい。

(一) 原告安田火災海上保険の本件保証契約締結に至る経緯

(1)(イ) 前記三1認定の経緯で昭和四九年一二月中旬ごろトーメンと被告山本興業、瀬戸崎鉄工所との間で、本件打設船を瀬戸崎鉄工が建造しトーメンに売渡し、トーメンがこれを更に被告セントラルリースに売渡し、同被告はこれを被告山本興業にリース貸するという大筋についての方針決定がなされた。

その結果、昭和五〇年一月七日、トーメンは瀬戸崎鉄工との間に本件打設船の建造契約を請負代金六億五〇〇〇万円でなし同月二三日、トーメンは被告セントラルリースとの間に本件打設船を代金七億円で売渡す売買契約をなした。

(ロ) 被告山本興業は昭和五〇年一月初旬には、右方針に従つて、被告セントラルリースとリース契約締結の交渉に入つたが、被告セントラルリースは、リース契約を締結するに当つては損害保険会社がリース契約上の債務を保証し保証証券を発行することが前提であるとの態度をとつた。

そこで、被告山本興業は、自己が保険代理店をしており、かつ自社船の大部分につき船舶保険契約を締結していた訴外興亜火災海上保険株式会社や被告セントラルリースの取引先である訴外千代田火災海上保険会社とリース契約の保証について交渉をしたがいずれも保証を断られたため、昭和五〇年一月九日ごろ、これも自己が保険代理店をしていた原告安田火災海上保険に対し前記リース契約上の債務についての保証契約の締結を求めて交渉に入つた。

(2)(イ) 本件保証契約についての交渉は、被告山本興業側は主として総務部長鳥井が当り、原告安田火災海上保険側は新種業務部保険第四課の小島課長が当り部下の川原林がこれを補佐した。

(ロ) 小島は、鳥井から、本件打設船の保証契約締結の交渉を受けると、同人に対して被告山本興業の経理状況、工事歴、設備能力、本件打設船の性能、稼働計画、収益性等の資料の提供を依頼し、口頭での説明を受けるのと並行して、被告セントラルリースも交えてリース契約の規定損害金額、換言すれば保証契約の保証金額を煮つめる交渉を開始した。

(ハ) 昭和五〇年一月九日交渉開始当初の被告セントラルリース及び被告山本興業側の本件打設船の希望規定損害金額(保証金額)は一一億円程度であつたが、その後二、三回の交渉を重ねて同月一四日夕刻には規定損害金額(保証金額)は約七億七〇〇〇万円程度で合意をみた。

(3)(イ) 同月一六日前記保証契約の件で鳥井の訪問を受けた小島が、規定損害金額が七億七〇〇〇万円程度に決まり原告安田火災海上保険を抵当権者とする保証金の求償権についての抵当権設定がなされ本件打設船につき十分な船舶保険契約が付保されるならば、原告安田火災海上保険において保証を引受けられそうだとの感触を示したところ、被告セントラルリースから本件打設船のリース契約上の債務の保証を確かに原告安田火災海上保険で引受けてもらえるという確約書をもらつて来いと強く要求されていた鳥井が、小島に対し、被告セントラルリース宛に原告安田火災海上保険名義で前記リース契約についての保証契約を引受ける旨の確約書をぜひ書いてくれと依頼したため、小島は、原告安田火災海上保険としては未だ保証するか否かを審査中でそのような確約書など書ける筈がないとこれを拒絶した。

(ロ) しかし、なおも鳥井が、同人宛の小島のメモのような形式でもよいから一筆書いてくれと懇願するので、同人の提供した資料や説明が虚偽でないという前提で、小島は、前出甲第一二号証の書面をしたため鳥井に与えた。

鳥井は、同日その足で右書面を被告セントラルリースの許へ届けた。

(ハ) しかし、鳥井は、右時点では、被告山本興業の経理状況は深刻な状況にあり、また、本件打設船を使用して同被告が東京都の産業廃棄物処理施設の地盤改良の下請工事を受注できる確約が何一つなかつたため、原告の安田火災海上保険の保証が受けられるか否かにつき強い不安の念を持つていた。

(4)(イ) 当時トーメンから被告セントラルリースに出向し東京支店副支店長の地位にあつた吉原と、その部下で本件打設船のリース契約についての保証契約交渉に吉原を補佐して携つていた山本は、前出甲第一二号証の書面を検討した結果、同月二一日、原告安田火災海上保険の小島の方で招いた訳でもないのに、被告山本興業の鳥井とともに、同原告が本件打設船のリース契約の保証契約を締結する意思があるか否かを確認するため、同原告本社に小島を訪ねた。

(ロ) 小島の保証業務の経験において、保証契約の主契約の債権者側の人間が、保証の成否を確認するために保証人を訪れることは極めて異例に属していた。

(ハ) 小島は、吉原、山本らに対し、目下本件打設船の性能・収益性や被告山本興業の経営内容を検討中で確定的にはいえないが、右時点までに鳥井から提出された資料や口頭説明を検討した結果ほぼ保証を引受けられる見通しをもつている旨を答えた。

(ニ) 右席上で吉原は、本件打設船の性能が極めて秀れていることを強調し一日八〇本位の杭を打てるのではないかなどと小島の面前で鳥井に対し述べていた。

(5)(イ) これを受けてその席上、原告安田火災海上保険と被告山本興業との間で、保証委託契約を近いうちに結ぼうという話題になつたところ、吉原は、被告山本興業の鳥井に対し、二〇〇〇万円近い保証料を今日、明日中にも同被告において原告安田火災海上保険に対し支払うよう強く要求した。

(ロ) これに対し前記三2認定のとおり被告山本興業は深刻な資金難に陥つていたので、同被告の鳥井は、払えないから待つてくれとも言えず処置に窮したが、小島がリース契約の始期の三月一日までに保証料を払込んでもらえばよいのだからと吉原をなだめたため、会社に帰つて山本邦治郎社長に相談してみると答えて辛うじてその場を辞した。

(ハ) 翌一月二二日、被告山本興業は、本件打設船のリース契約債務の保証料を工面して原告安田火災海上保険の口座に振込支払つた。

(ニ) 同被告の鳥井は、右保証料振込の後、原告安田火災海上保険の小島に対し、同人の口から被告セントラルリースの吉原に対し被告山本興業から保証料の入金があつた旨伝えてくれるよう依頼した。小島は、保証料を入金したことは鳥井が自分で被告セントラルリースへ連絡すればよいことで原告安田火災海上保険の方から連絡する筋合のものでなく、馬鹿馬鹿しいことだと考えたが、鳥井のたつての頼みなので同原告の船舶営業部から被告セントラルリースへ右保証料入金の事実を連絡させた。

(ホ) 通常の保証業務では、保証料の支払は保証証券発行の前日乃至一週間位前までで、一ヶ月以上も前のしかも保証するか否かも確定できない段階で保証料を先に払込んで何とか保証契約を締結してくれなどということは、小島においてかつて一度も経験したことのない異例のものであつた。

また主債務者からの保証人である保険会社に対する「債権者に保証料の入金のあつたことを連絡してくれ」という申出も、小島においてかつて一度も経験したことのないものであつた。

(ヘ) 同月二二日、すなわち、被告山本興業から原告安田火災海上保険に対して本件打設船のリース契約の保証料の払込があつたその日、トーメンは瀬戸崎鉄工に対し本件打設船の売買代金の半額三億二五〇〇万円を約束手形で支払い、右打設船の引渡を受けた。

翌一月二三日、被告山本興業は、本件打設船の艤装の下請工事着手に先立つて瀬戸崎鉄工から右艤装工事代金の約半額に相当する九五〇〇万円をトーメン振出の約束手形で受領した。

(ト) 更に同月二三日ごろ、原告安田火災海上保険の方で呼んだわけでもないのに、トーメンの産業プロジェクト部の山田憲一が被告セントラルリースの吉原、山本とともに同原告を訪れ、被告山本興業からの保証料入金の確認をしていつた。

(なお、証人吉原、同山本らの供述中、同人らが同月一七日原告安田火災海上保険を訪問し小島に本件打設船のリース契約上の債務保証の意思を確認したところ同原告会社名の確約書は出せないといわれたため被告セントラルリースはいつたん被告山本興業に対する本件打設船のリース契約を取止めることを決定したが、しかし同月二一日午前被告山本興業の代表取締役山本邦治郎と鳥井が被告セルトラルリースを訪れ原告安田火災海上保険と被告山本興業との間で保証委託契約を締結してそのコピーを被告セントラルリースに提出し原告安田火災海上保険保証確約書に代えることを提案したので、被告セントラルリースから原告安田火災海上保険の小島に右方法につき照会したところ同人は保証委託契約書があれば間違いなく保証する旨答え、また千代田火災や訴外東京海上火災株式会社にも右の点につき確認したところ同趣旨の回答を得たので、前記保証委託契約が締結されれば本件打設船のリース契約を締結することを決定し、同日午後原告安田火災海上保険方で鳥井に会つた際には早期に保証料を払込み保証委託契約を締結するよう依頼した旨の供述部分は、吉原、山本らが最初に原告安田火災海上保険を訪れたのが昭和五〇年一月二一日である旨の証人小島、同川原林の証言、前出甲第一九号証(保証委託契約申込書)には保険会社の保証取止め権限留保条項の存在すること、保証委託契約は主債務者が保証人に保証を委託し保証人はその旨努力するという契約にすぎず、これが締結は必しも保証人と主契約の債権者との保証契約の締結、すなわち、保証証券の発行に当然につながるものでなく、保険会社が保証を取止める場合もある旨の証人小島の証言等に照して措信しがたい。)

(6)(イ) それから約一ヶ月後の同年二月二〇日すぎごろ、被告セントラルリースの山本から、原告安田火災海上保険の小島を補佐して本件打設船のリース契約についての保証契約交渉に携つていた川原林に対し、本件打設船そのものは同年三月一日までに完成稼働が可能であるが、ただ同原告のために右打設船につき抵当権設定登記手続を了して同日までに登記済権利証を交付することはできない、しかし何とか保証を引受けて保証証券を発行してくれないかとの連絡があつた。

(ロ) そこで、川原林は上司の小島と相談した結果、住宅ローンの保証保険について抵当権設定登記手続が保証証券発行までに日程上できない場合に、抵当権設定登記手続をするのに必要な全書類を信頼しうる司法書士に託して抵当権設定登記済権利証の交付に代るものとして保証証券を発行するという取扱をしているのと同様に、被告セントラルリースが本件打設船について原告安田火災海上保険のための抵当権設定登記手続をするのに必要な書類を確実な手続をする人に託して抵当権設定登記済権利証の交付に準ずるものとみなして保証証券を発行するという取扱をすることを決め、被告セントラルリースの山本にその旨連絡した。

(ハ) 被告セントラルリースの吉原、山本はトーメンから海事代理士の三池を紹介してもらい、同人は予め吉原らと打合せて前出甲第一三号証の預り証をタイプ印刷したうえ、同月二八日、吉原、山本は三池と待合せて本件打設船についての抵当権設定登記手続に必要な書類を授受するため、原告安田火災海上保険本社を訪ねた。

(ニ) 同日、小島は所用で出張不在であつたため、川原林が原告安田火災海上保険側担当者として応対に当り、同人は、前出甲第一三号証に記載の同原告の委任状・株式会社登記簿抄本を提出し、吉原らは被告セントラルリースの抵当権設定契約書・代表取締役の印鑑証明書・株式会社登記簿抄本・委任状を提出し、三池は右各書類を受領し、前出甲第一三号証の預り証を川原林に交付した。

(ホ) その際川原林は、所有権保存登記済権利証は、責任ある海事代理士の三池の預り証に記載されているうえ同人は本件打設船の保存登記手続にも携つている以上当然同人が預かつているものと考えてあえて提示を求めることをせず、抵当権設定登記手続に必要な書類を海事代理士の三池に交付したものと了解して、同日その場で、原告安田火災海上保険を代理して、本件打設船のリース契約に関する保証契約を締結し、その保証証券を発行交付した。

(ヘ) 右川原林との交渉において、三池、吉原、山本らは同日までに本件打設船が建設機械抵当法所定の打刻が未了で登記済権利証が存在しないことを熟知しながら、川原林に対し、事前にも二月二八日にも右打刻未了、即ち所有権保存登記済権利証不存在の事実を告げなかつた。

(証人三池、同吉原、同山本の供述中、二月末現在本件打設船は打刻未了であるが、打刻がすみ次第抵当権設定登記手続ができる旨予め川原林に連絡しており、前出甲第一二号証に未だ存在しない所有権保存登記済権利証が記載されている点については川原林も同日の時点で存在しないことを了解の上であつた旨の供述部分は、証人川原林、同小島の前記所有権保存登記済権利証を含む抵当権設定登記手続に必要な全書類を三池に交付して抵当権設定登記済権利証の交付に代わるものとみなして保証証券を発行することを辛うじて了解した旨の証言、もともと、本件保証証券の発行は被告山本興業及び被告セントラルリース側の積極的な働きかけの結果なされたもので、原告安田火災海上保険としては本件打設船の打刻未了、即ち未完成の状況にあることを告げられてまで保証証券の発行を急ぐ必要性は何ら存しないのみか、むしろ極めて危険なことですらある事実からみて措信しがたい。)

(7)(イ) その後、同年三月一〇日ごろ、原告安田火災海上保険の小島は、被告山本興業の鳥井から、同被告が本件打設船の付属装置であるSC装置を被告セントラルリースからリース借するにつき、右原告が本件打設船の場合と同様にリース契約上の債務につき保証することを求められた。

(ロ) 小島は、右申込を受けて、当初の本件打設船についての保証証券発行時には打設船本体には付属の本件SC装置も含んでおり既に同月一日から稼働している筈であつたし、又同年二月二八日に前記三池海事代理士に委任した本件打設船の原告安田火災海上保険を抵当権者とする抵当権設定登記手続も未だ履行されていないことにいたく不審の念を抱いたが、とにかく本件SC装置がなければ本件打設船は用をなさないと被告山本興業の鳥井に説明され、やむなく、本件SC装置についても被告山本興業のリース契約上の債務につき保証を引受けることとし、同年三月一八日保証証券を発行した。

(証人山本の供述中、原告安田火災海上保険の小島らは、本件SC装置についての保証の交渉に際して、本件打設船が未だ稼働に至つてない事実や抵当権設定登記手続が未了である事実について何ら問題にすることなくさしたる折衝もなく本件SC装置についてのリース契約上の債務の保証に応じた旨の供述部分は、証人小島、同川原林の各証言及び前記本件打設船のリース契約上の債務についての保証証券発行までの経緯、既に保証証券を発行してしまつている本件打設船と本件SC装置の規定損害金額の比率、原告安田火災海上保険が保証を引受けなければ本件SC装置のリース契約は締結されず結局本件打設船も稼働収益が出来ずそのリース料支払の目途も立たない状況にあつたこと等の事情に照して措信しがたい。)

(二) トーメン、被告セントラルリース、被告山本興業の関係

(1) 前記三1、五1(一)認定のとおり、被告セントラルリースが被告山本興業に本件打設船をリース貸することになつたのは、被告山本興業が本件打設船の建造費負担をトーメンに求めたところ、同社が直接リース貸することはできないとして、系列のリース業者である被告セントラルリースを紹介し、同被告に被告山本興業に対する本件打設船のリース契約を取上げるよう依頼したことがきつかけとなつていた。

(2) 本件打設船及びSC装置の各リース契約上の債務保証契約の締結交渉の被告セントラルリース側の担当責任者になつた吉原は、昭和四九年九月以来右被告東京支店副支店長としてトーメン在籍のまま出向していた者で、その給与もトーメンから支給されていた。

(3) トーメンは被告セントラルリースの資本金の一割を出資し、常時四乃至六名の従業員を被告セントラルリースの役職員として出向させていた。

(4) 被告セントラルリースの昭和五〇年度のリース物件仕入先としては金額の上でトーメンが首位の座にあつた。

(5) 本件打設船につき原告安田火災海上保険を抵当権者とする抵当権設定登記手続に関与した三池は、トーメンの配下の海事代理士で、被告セントラルリースがトーメンに紹介してもらつて依頼した者であつた。

(6) 被告山本興業は、被告セントラルリースから昭和四六年ごろ、やはりトーメンの斡旋で第五ほうこく丸という中古船をリース借したこともあつた。

2 前記三、四、五1の各事実を照判旨合すると、トーメンは、被告山本興業が瀬戸崎鉄工に昭和四九年一一月に仮発注した本件打設船の造船契約をかたがわりし、昭和五〇年一月七日付で瀬戸崎鉄工との間で請負代金六億五〇〇〇万円で本件打設船の造船契約を締結したこと、ところで、トーメンと瀬戸崎鉄工間の右造船契約は、トーメンが本件打設船をその系列下にある被告セントラルリースをして被告山本興業にリースし、被告山本興業の本件打設船による稼働収益金よりリース料として回収することによつてその採算をとる方針に基づくもので、若し、右方針に破綻が生じた場合には、トーメンとしては、汎用性のない本件打設船をつかまされ、その結果、多大の損害を蒙る立場にあつたこと、原告安田火災海上保険が、被告セントラルリース間に、本件打設船のリースにつき本件保証契約を締結した昭和五〇年一月二二日当時、被告山本興業の経営状態は極めて悪く、早晩、倒産は避けられない状態にあり、しかも、その打開策として考えられている本件打設船による収益計画は東京都との話もかたまつておらない具体性のないものであり、これらの事情は、大手商社であるトーメンとしては、その組織からみて充分な調査能力があり、しかも、右調査に必要な期間を有していたこと、また、これらの事情が前記方針を成功させるために極めて重要な中心問題であること等からみて、これを知つていたと推測されること、被告山本興業の倒産による前記方針の破綻によるトーメンの蒙る前記損害を避けるためには、被告セントラルリースの被告山本興業に対する本件打設船のリースについて原告安田火災海上保険との間に本件保証契約を締結することが、最も安全、かつ有効な手段であつたこと、被告セントラルリースは本件保証契約締結につき異常なまで積極的態度をとり、しかも、同被告においてこれらの事項を担当したのが、トーメンからの出向者である吉原敏治であつたこと、被告山本興業は原告安田火災海上保険との間の本件保証契約締結の約五〇日後には倒産するに至つたことを各認めうるが、これらの認定事実によると、多少の疑問の存することは否定しないが、被告セントラルリースは、被告山本興業の原告安田火災海上保険に対する本件打設船及びそれに次ぐ、本件SC装置のリースについての保証契約に際し、被告山本興業の詐欺行為を知つていたと推測することができ、右推測に反する証人吉原、同山本の供述は前掲各証拠に照して措信できず、他に右推定を覆するに足りる確たる証拠はない。

六請求原因8(三)の事実は当事者間に争いがない。

七以上によれば、その余の請求原因事実及び仮定的抗弁事実につき判断するまでもなく、原告安田火災海上保険の、不当利得に基づく金九九五五万六五〇〇円及びこれに対する被告セントラルリースの悪意の利得日の翌日である昭和五〇年九月一二日から右支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は理由がある。

第二乙事件に対する判断

一(原告安田火災海上保険に対する請求)

請求原因1の事実は当事者間に争いなく、また、同原告の抗弁1の事実は前記第一の三ないし六のとおり認められるのであるから、その余の請求原因及び抗弁事実につき判断するまでもなく、被告セントラルリースの同原告に対する請求は理由がない。

二(被告山本興業に対する請求)

1  請求原因1乃至3(一)の事実に争いはなく、同3(二)の事実は当裁判所に顕著である。

2  被告山本興業の抗弁について

(一) <証拠>を綜合すると、本件打設船及びSC装置の建造は被告山本興業が計画したものであるが、同被告の自己資金力によつてその建造費を調達することが困難であつたため、当初から商社などに資金負担者として入つてもらうことを予定しており、その結果大手商社トーメンの紹介で被告セントラルリースが本件各リース契約を締結するに至つたこと、本件各リース契約中には、「リース期間を六〇ヶ月とし被告山本興業(以下、ここでは甲と略称する。)は毎月均等のリース料を二ヶ月目以降の分をも含め各月一日を各支払期日(ただし、本件SC装置については初回リース料は昭和五〇年三月一八日現金払)とする約束手形を被告セントラルリース(以下、乙と略称する。)に一括振出交付して支払う。甲は物件の引渡後一定期間内に物件の検収をなし借受証を交付し以後物件の瑕疵をもつて乙に何らの要求をなし得ない。検収時に物件に瑕疵が存するときは甲乙間で協議をするがその場合でも乙は責任を負わず物件の売主に対する損害賠償請求権を甲に議渡する。物件の引渡が遅延しても乙は責任を負わない、甲はリース契約期間中契約を中途解約できない。甲は自己の責任と負担で物件の保守の責に仕する、甲はその原因の如何を問わず物件の損傷・滅失の損害を負担する。甲はリース期間中その費用をもつて物件について乙を被保険者として乙の指定する損害保険契約を締結する。その原因を問わず物件が滅失・紛失し又は甲の契約違反等により契約が解除されたときは甲は乙に別に定める規定損害金を支払う。」旨の条項が存すること等が認められ、本件各リース契約はファイナンス・リースと解するのが相当である。

判旨(二) ファイナンス・リースは、リース物件を購入使用したいが即時購入する資力がないか、又は購入という方式を得策としないユーザーに代つてリース貸主が、自己の資金でリース物件を購入し、ユーザーに長期間拘束して使用収益させ右購入代金・金利等諸経費をリース料として回収する制度であつて、形式上賃貸借の法律関係を利用しているものの、経済的には、法律上の形式にかかわらずリース貸主がユーザーに対しリース物件という「物」を介して金融上の便宜を供することがその本質をなしており、これによつてユーザーがリース物件を所有権留保付で割賦購入する場合と同一の効果をもたらすものである。

それ故、換言するならば、リース料債務は契約時にその全額が発生していて、ただ割賦支払の方式によりユーザーに期限の利益が付与されているにすぎないとも考えられるのである。

果してしからば、右ファイナンス・リースの実質に鑑み、リース物件の使用収益とリース料の支払とは対価関係にあるとは到底いいがたく、被告山本興業の抗弁は、リース物件の使用収益とリース料の支払が対価関係にあるとする前提自体において失当である。

3  以上の次第で、被告セントラルリースの被告山本興業に対する請求は、昭和五〇年一〇月分から昭和五五年二月分までの本件各リース料・立替保険料合計金一〇億六三二三万七七五一円及びこれに対する昭和五五年二月二日から支払ずみまで約定の日歩四銭の割合による遅延損害金、並びに昭和五〇年五月分から昭和五五年一月分までの本件各リース料・立替保険料に対する前記各弁済期から昭和五五年二月一日までの確定遅延損害金合計金三億五四八八万〇三三一円、並びに前記昭和五五年五月一二日の口頭弁論期日までに一年以上延滞になつている昭和五四年五月分(その弁済期は同月一日)以前の各月分の本件各リース料及び立替保険料合計金三億四三九九万八七六三円に対する前記昭和五五年五月一二日の停止条件付元本組入の意思表示の翌日である同月一三日から支払ずみまで約定の日歩四銭の割合による重利の遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の部分は失当である。

第三結論

以上によれば、原告安田火災海上保険の被告セントラルリースに対する請求は理由があるからこれを認容し、被告セントラルリースの原告安田火災海上保険に対する請求は理由がないからこれを棄却し、被告セントラルリースの被告山本興業に対する請求は主文二項の限度で理由があるからこれを認容しその余の部分は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、九二条本文及び但し書、九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(山口和男 寶金敏明 太田剛彦)

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